虹いろ探偵団51 残された手掛かり

残された手掛かり

ちょうど一年前、間借りのジミーを見送った時と同じ季節をむかえていた。月日の流れの早さを改めて感じながら私は朝食のためにキッチンに立った。出窓から差し込む朝の光が眩しい。私は三種類のピクルスとオムレツを用意しトーストを焼いた。

「リンダ、おはよう」

と、ローリーがキッチンに入ってきた。

「おはよう、ローリー。よく眠れた?」

と、私は訊いた。

「よく眠れたよ。おかげで目覚めすっきり~」

と、ローリーは歌うように言って、ジャムとバター、そして蜂蜜を用意した。

私は淹れたての珈琲をテーブルに出した。

いただきます、と手を合わせたあと、

「今日の午後はメリルさんが来るんだよね」

と、ローリーが訊いた。

「ええ、ハリスのことは一年前に聞いているけれど、13年も、いえ、もう14年以上も前の事故死の裏付けとなると難しいわね」

と、トーストをかじりながら私が言った。

「警察ならとっくに時効になりそうな案件だね。僕も幸いに仕事の手が空きそうだから手伝うよ」

と、オムレツに手をのばしながらローリーが言った。

私とローリーは、出窓から朝の光を受けながら互いに話し、笑い、珈琲をお代りし、デザートにイチゴのジャムをたっぷりかけたヨーグルトを食べ、お腹も気持ちも満たして一日の出発をした。

午後になって、メリルとマリアがやって来た。

「一年前にもお話したと思うのですが、ハリスは絶対に自殺じゃありません。でも、死亡当時の状況だけで下の弟は自殺だと思っています。もしかしたら下の弟だけじゃないかも知れません、そう思っているのは。だから、ハリスのためにも事実を知りたいのです。あの日あの時ハリスに何があったのかを」

と、メリルが言った。

「メリル、よくわかったわ。だけど、ハリスのことを洗い直すには手掛かりが要るわね。レンタルボックス以外にハリスに関する情報や手掛かりになりそうなものはあるかしら?」

と、私は訊いた。

「そう思ってハリスに関するものは全て持ってきました。手掛かりになるかどうかはわかりませんが…」

と、メリルは言ってローテーブルの上に封筒を差し出した。

どうぞ、とメリルに促され、私は封筒の中身を確認した。

一年前にも見たことのあるハリスの数枚の写真とともに、死体検案書、死体埋・火葬許可証、葬儀社の領収証などが入っていた。それ以外に、遺産相続に関する裁判所の資料等、弟の死において姉メリルに必要とされた書類一式が同封されていた。

死体検案書には、窒息という文字、一酸化炭素中毒という文字があった。発見当時、レンタルボックスには鍵がかかり密室状態であり、事件性はないとして遺体解剖も行われなかった。

それらをまじまじと食い入るように見ながらマリアが言った。

「こういうの、はじめて見たけれど自殺とか事故死とは書かれないのね」

私は、メリルに訊いた。

「発見者は“姉”と書かれてあるけれど、これはメリルじゃないのね?」

「はい、次女のことです」

と、メリルが答えた。

私はメリルの生い立ちを既に把握していることを踏まえたうえであらためて訊いた。

「この妹さんに事情を訊くことは出来ないのよね?」

「はい、連絡先を全く知らない訳ではないのですが、この妹とも事実上の絶縁関係にあります。お恥ずかしい話ですが」

と、メリルは目を伏せた。

「メリル、一応確認のために訊いてみただけだから気にしないで。当たれるところから当たりましょう」

と、私は言った。

注意深く資料一式を見入っていた黒猫が、この住所は?とメリルに訊いた。死亡当時のハリス・ロンドの住所欄だ。レンタルボックスとは違う住所が記されている。よく見ると、レンタルボックスの住所は「発見された所」という欄に記載されていた。

「はい、ハリスが離婚後に借りたアパートの住所だと思います」

と、メリルは言って続けた。

ハリスがどうして、そんな知らない街にアパートを借りたのかは知らない。知り合いがいたのか、仕事の関係だったのか。しかし、結果としてハリスがこのアパートに住んでいたのは半年か、長くて一年程ではないか、とメリルは言った。

「あのレンタルボックスに行き着く前から、知り合いの事務所兼倉庫で寝起きをさせてもらっていたようです。時々は下の妹のところにも。後で知ったことですが」

と、メリルは言った。

「そう。住所を移せないまま転々としていたってことね」

と、私は言った。

「はい、そうだと思います。最後に行き着いたレンタルボックスも当然居住用ではないので、法律上住所登録するわけにもいかず、そのままそのアパートが最後の住所地となったんだと思います」

と、メリルが言った。

「まず、ここに行ってみるべきね」

と、黒猫が言った。

「でも、ここに行ったってハリスが住んでいた時からはもう16年は経つのよ。ハリスのことを覚えている人はもういないんじゃない?そもそも、このアパートがあるかどうかだってわからないのに」

と、マリアが言った。

「それでも行くのよ。だって、この目の前の資料以外に他に手掛かりがある?」

と、私はマリアに言った。

「はい、はい、新年早々、こりゃ大変だ」

と、マリアが言った。

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