虹いろ探偵団52 2020.1.4 ハリスを追って

2020年.1.4 ハリスを追って

新年早々の1月4日、メリルとマリアとジョージと私、そして黒猫とローリーの虹いろ探偵団一行はハリスの最後の住所地にむかった。道案内役はローリーだ。

「電車を乗り継いで一時間半くらい、多少歩いたとしても二時間弱かな。結構大きな都市だと思うよこの辺りは」

と、ローリーが言った。

マリアが

「知らない土地にみんなで行くなんてまるで旅行みたいね、わくわくするわ」

と、車窓からの景色を眺めながら言った。

「旅行なんて大袈裟ね」

と、黒猫が笑った。

やがて、大きな都市に着いた。高層ビルが立ち並んでいた。ビルからビルを繋ぐスカイウォークに人の波が流れていた。

「すごい都会ね」

と、マリアがため息をついて言った。

私たちは、その大都市からまだ地下鉄を乗らなければならなかった。

地下鉄は混んでいて、私たち一行は次から次へと乗り込んでくる人の波に押しのけられ、車内のあちこちに散らばらなければならなかった。その瞬間、皆がはぐれないようローリーが

「ここから、四つ目の駅っ!」

と、叫んだ。

私たちは電車のなかでもみくちゃにされながら、なんとか四つ目の駅で降りた。

「全員揃っている?」と、私は訊いた。

ローリーが全員が揃っていることを確認して、

「この駅から徒歩10分くらいでハリスの住んでいたアパートのはずだよ」

と、言った。

その駅はさっきの大都市とは違い、あちこちに屋台が立ち並び、商店街のような細い路地が何本にも張りめぐらされ、異様な熱気と屋台の様々な料理の匂いが入り混じっていた。まるで一瞬にして私たちは異国にでも来たような感覚だった。私たちは電車のなか同様、人の波にはぐれることのないよう細心の注意を払いながら、それでも両脇に立ち並ぶ美味しそうな屋台や異国情緒あふれる雑貨に目を奪われながら歩を進めた。

「まるで、迷路ね」

と、私が言った。

「もう、そろそろこの一角を抜けるはずなんだ。そしたら、ハリスの住所だと思うんだ」

と、ローリーが言った直後、その迷路のような一角を抜けた。

いきなり、寂びれたような街が現れた。街はしーんと静まり返っている。

「さっきの屋台の匂いに刺激されたのか、なんだかお腹が減って来たわね」

と、私が言った。

「お昼ご飯、さんせーい!」

と、マリアが元気よく手を挙げた。

「先にハリスのアパートだよ、食事はその後」

と、ローリーが冷静に言った。

私とマリアは叱られた子供のように、はーい、と小さな返事をした。

ここだ、とローリーが言った。

古びた五階建てのアパートの入り口に、確かにハリスの書類にあったアパート名が記されていた。

「確か、この四階にハリスが住んでいたはずです」

とメリルが言って、私たちはビルの四階を見上げた。四階の窓にはいずれも洗濯物が干され、今は別の人が住んでいるのは明らかだった。そのアパートからスリッパ履きの浅黒い男性が出てきた。その浅黒い男性は私たち一行を横目で見ながら通り過ぎて行った。

「一応、ハリスの住所に辿り着いたわけだけど、これじゃハリスの事故死の裏付けにはならないわね。メリル、どんな小さなことでもいいわ、他に思い出せることはない?」

と、私は訊いた。

メリルは必死に記憶を引き出そうとしていたが、何も手掛かりになりそうなものは出てこないようだった。

「取りあえず、聞き込みを兼ねて手掛かりを探すよ」

と、黒猫が言った。

「そうね、現場をくまなく知る以外にないわね」

と、私が言った。

「どうやって?」

と、マリアが訊いた。

「足だよ、足」

と、ローリーが言った。

私たちはハリスのアパートを中心に、筋を一本、二本、三本と広げて歩いた。何処もシャッターは閉まっていた。住居なのか店舗かもわからなかった。店舗だとしても、その古さとシャッターの寂れ具合からみて、営業しているのかさえわからなかった。家々の前に放置されたボロボロの自転車。埃をかぶっているものもある。道路脇には不法投棄されたゴミの山。

「聞き込みをしようにも人っ子ひとりいないわね」

と、私が言った。

「まだ年が明けたばかりの四日ですから休業中でも無理はないのですが。それにしても、何故ハリスはこんな寂びれた街に住んだのでしょうか……」

と、メリルが小さく呟くように言った。

「そういえばアルペンタに行った時の風景が、如何にもハリスが好きそうなところだって言ったわね」

と、私はメリルに訊いた。

「はい、ハリスは子供の頃から山が好きで、亡くなる前もいつも山にバイクを走らせてお気に入りの場所から景色を眺めていたって。そんなハリスだからこそ、こんなごみごみしたこの街のイメージと結びつかなくて……」

と、メリルが言った。

「やっぱりお金に困っていたんじゃない?そうじゃなきゃ、もう少しマシな所を借りるでしょ」

と、マリアが言った。

メリルは沈痛な面持ちで黙っていた。暫く周辺をうろうろとした挙句、私たちはもとのアパートの前に戻って来た。

その時、メリルが

「そう言えば、妹が言っていました。ハリスが都会は凄い!って目を見張って言っていたことがあるって。ネオンがいっぱいで夜も眠らない街なんだって興奮していたって」

と、声をあげた。

「それがこの街なの?どうみてもそうは見えないけど」

と、マリアが言った。

メリルは再び沈黙した。

「ハリスのいた四階の様子を見てくるよ。それにビルの屋上も。上から見渡せば何か手掛かりになりそうなものが見つかるかも知れない」

と、ジョージが言った。

みんな、そうね、と同意し、改めてアパートの近くをくまなく見てまわった。

アパートの四階の通路には、壊れた家電やごみ袋が散乱していた。錆びた鉄柵の端っこには汚れた段ボールが敷かれてあった。

メリルは、そのアパートの環境に思わず目を覆いたくなった。

「これといって手掛かりになるようなものはないわね」

と、私が言った。

「見れば見る程、ハリスの経済状況が困窮していたんじゃないかっていう想像にしかならないね、寂しいけれど」

と、ジョージが言った。

「それだとしたって、私、納得がいかないの。何か、何かこの場所を選んだ理由が他にあるはずだと思うの」

と、メリルが言った。

「それにしても、お腹が減ったわね」

と、黒猫が言った。

「今、歩いたけど何もなかったわよ」

と、マリアが言った。

「じゃ、取りあえず駅に戻ろうか」

と、ローリーが言った時、黒猫の耳がぴんと立った。そして、

「もっと歩けって、ハリスが言ってるわ」

と、言った。

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