虹いろ探偵団53 2020.1.4 ハリスを追って(続)

私たちは黒猫の後について、まだ歩いていない道を探して歩いた。そして、細い路地を抜けた途端、さっきの寂びれた街とは思えない一角に出た。ぎらぎらとした電光板、ネオン瞬くビルが立ち並び、様々な国の飲食店が派手な看板を凝らして、いつでもどうぞとばかりに客を待っていた。

「きゃーっ、凄い!お店がいっぱい!お昼ご飯にありつける」

と、マリアが言った。

私たちは、日頃馴染みのない異国情緒あふれる店に、ここもあそこもと目移りしながらその賑やかな通りを進んで行った。そして、軒下に赤い提灯がぶら下がる路地に出た。そこは、まさしく親日家のピエールさんが詳しそうな日本情緒あふれる一角だった。

「ねえ見て、この看板の写真凄い!これってテレビや本で見たことのある日本の“着物”じゃない?」

と、マリアが感嘆の声をあげた。

ジョージがその看板の文字を読み上げて言った。

「ここでは“芸妓に変身”させてくれるらしい」

「そうなの、私も変身できるのかしら!?」

と、日頃冷静なメリルまでが珍しくはしゃいだ声をあげた。

その隣の家からは“三味線”の音色が聞こえてきた。

「何だか情緒のある音色ね」

と、マリアがうっとりした表情で言った。

ローリーは、この路地で一瞬のうちに通り抜けてきた飲食店を指折り数え挙げた。

「ベトナム料理、中華、韓国、タイ、台湾料理もあったね、そして日本」

すかさず、

「インド料理の看板もあったわよ」

と、マリアが言った。

「凄いところね、ひとつ路地を曲がった途端に異空間だわ。異文化の宝庫」

と、私が言った。

私たちは暫く目を見張りながら驚きと感嘆の声をあげ続けた。

「ところで、どこでお昼にするんだい?こんなにたくさんのお店があると目移りするね」

と、ローリーが言った。

「中華だって」

と、黒猫が言った。

すかさず、メリルが

「はい!ハリスなら中華だって言う気がしました!」

と嬉しそうに言った。

私たちは何軒かの中華料理のお店を見比べ、ハリスが気に入りそうな店に入った。店内には、やはり中国人?と思しき人たちが何組も座っていた。店内の会話はすべて外国語で私たちには理解出来なかった。それが中国語かさえも。私たちはわくわくしながらメニューをめくった。美味しそうな料理の写真に私たちは目を輝かせた。料理名が読めない私たちは、料理の写真を指さしながら注文をした。

「ハリスがこれも食べろって言ってるわよ」

と、黒猫が言い、私は慌てて店員さんにハリスのそれも指さして注文した。

料理を待つ間、私たちは興味津々で店内を眺めた。他のテーブルの客たちは決して身なりが良いわけではなかった。しかし、ローリーが

「みんな、はつらつとして健康そのものって感じがするね。パワーを感じるっていうか」

と、言った。

「ほんとね、あのワイルドで髭面のハリスなら好きそうね」

と、私も言った。

「生命力が漲っているって感じがします」

と、メリルが言った。

次々と運ばれてくる料理に私たちは舌鼓をうった。私たちのお腹を満たしてくれるだけでなく、未知の探検心をも満足させてくれるのに充分過ぎる美味しさと量だった。

「写真通りね。あんな大きな魚丸ごと一匹、油で揚げているなんて凄いわ!」

と、私は言った。

「これ、豚のレバーって書いてあるわよ」

と、マリアが言った。

「この麺、コクがあって美味しいです」

と、ジョージが目を見張って言った。

「この麻婆豆腐も辛いけど、スタミナつきそうだね」

と、ローリーが言った。

私たちはその度に、どれ、私にも頂戴、と言ってそれぞれの料理を分け合って食べた。

とその時、蟹炒飯に貪りついていた黒猫が

「だから、わかったって…」

と、面倒臭そうに言った。

私たちは、わかったって、何が?と黒猫を見た。

「さっきから、ハリスがうるさいんだよ。旨いだろ、俺が言った通りだろって」

と、黒猫が言った。

「ハリスなら言いそうです、得意気に。鼻高々に言ってる姿が目に浮かぶようです」

と、メリルが楽しそうに笑って言った。

私たちはお腹も心も充分満足して、ありがとう、サンキュー、シェイシェイと思いつく限りの言葉でお礼を言って店を出た。

暫くは皆何処ということもなく、来た道を満足顔で歩いた。

「ハリスがこの街を選んだ理由はこれだったんですね。都会は凄いって。ネオンがいっぱいで夜も眠らない街だって、きっとここだったんですね」

と、メリルが言った。

「そうね、この生命力漲るエネルギッシュなところに惹かれたのね、きっと」

と、私が言った。

「決して裕福とはいえなさそうな人たちですけど、“生きる力”みたいなものを感じますね」

と、ジョージが言った。

「ここのパワーに勝るだけのエネルギッシュさがなかったら、反対に食われちまう街だよ」

と、黒猫が言った。

「離婚したハリスは、人生の再起をかけてこの街を選んだんです。やはり自殺じゃありません」

と、メリルが言った。

「そうね、少なくともこの時点では、ハリスは未来しか見ていなかったはずね」

と、私は言った。

とその時、黒猫が、こっちに行くわよ、と言って別の道を進みだした。

私たちは後について歩いた。

電車の高架をくぐり小さな公園に出た。子供用の遊具が少しと砂場がある。公園には大きな木が一本立っているが、一月のせいだろう、葉は一枚もなかった。その裸の木の下に立って黒猫が目を閉じていた。そして、メリルに言った。

「ハリスが見たよ、って答えているよ、いつかのメリルの問いに。綺麗な桜見たよって」

メリルははっとしたような表情で、その裸の木に近づいた。そして

「ほんと、桜です、この木。今は裸ですけれど、確かに。ちゃんと目に焼きつけて逝ったんですね、良かった」

と、メリルの目に一筋の涙が流れた。

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