雨上がりは虹を探して  3.ムっちゃんの場合

ムっちゃんの場合

カラ、コロ、カララ、コロンコロン、カラーンと、ウッドベルがいつもより騒がしく鳴って、入って来たのはムっちゃん。
「月ちゃーん、お久しぶり。会いたかったわー」
と、ムっちゃんが扇子をパタパタとなびかせながらカウンターに座る。
「ここまでタクシーで来たらさすがに高いわね~、万札はたいちゃったわよ。だけど、そうでもしてここに来なきゃ、月ちゃんに会えないじゃない。この頃はまったく東門にも出てきてくれないんだからー。ほんと月ちゃんったら、つれないお人。いやーね、責めてるんじゃないのよ。そりゃー、こうして空気がきれいな場所でのんびり生活したほうが良いに決まってるじゃない。体だって健康になるし。私だって、出来るならそうしたいくらいよ。だから、月ちゃんが幸せならそれでいいのよ。それが一番良いって、私も喜んでるのよ。いつだって私、月ちゃんの幸せを願ってるんだから。ほんとよ」
と、息継ぎを感じさせない早さで一気にムっちゃんが言う。
そして、すぐさま
「この色どーお?」
と、今度は着てきた着物の袖をカウンターの上で引っ張るように月子に見せて訊いた。
「綺麗な山吹色じゃない。良いと思うわよ。ムっちゃんによく似合ってる」
と、月子が返す。
「そう、良かった!これで安心したわ。久しぶりに高い買い物しちゃったから。これで月ちゃんに褒めてもらえなかったら、後悔しちゃうとこだったわ」
そして“あー、喉渇いちゃったわ”と言って、お冷を一気に飲み干す。
月子は淹れたての珈琲を出し、空になったグラスにお冷を注ぐ。
「それでどうなの?蛇ちゃんとの暮らしは」
と、ムっちゃんが訊く。
「快適よ。相棒が居るって感じ」
と月子。
「まー、相棒だなんて月ちゃんらしいわね。男と暮らすより蛇が良いなんて、私には到底理解できないけど。それで、その蛇ちゃんはどこに居るの?」
“そっち”と、月子が店のドアからまっすぐ奥の壁を指さす。
「えっ、どこなの?」
と、ムっちゃんがカウンターから振り向いて月子が指さす方を見る。
「えっ、あれが蛇ちゃんのお家なの?まるで、ここから見たら書棚じゃない」
と、言いながらムっちゃんが蛇の書棚を覗き込む。
「あー、居たわ、蛇ちゃん。なんて名前だったかしら?」
「孫々(そんそん)とスノーよ」
と、月子。
「そうそう、この大きい子が孫々ちゃん、白い子がスノーちゃんだったわね、可愛いー。やっぱり蛇ってほんとに蜷局巻くのね、凄ーい。お顔隠しちゃってるけど、これって寝てるのかしら?」
と、ムっちゃんが訊く。
「基本的には夜行性だから」
と、月子。
「そうなんだー。私と一緒ね」
と、言いながらムっちゃんがカウンターに座り直す。
はあ、とため息をつきながら
「ここは別世界ね。昼間でもこんなに静かなんだから、夜なんて静かすぎて怖いくらいでしょうね」
と、ムっちゃんが言う。
「それが、そんなに静かでもない。夜のほうが街の喧騒が聞こえてくるっていうか、昇ってくるっていうか。結構遠くからでも車やバイクの走る音って響いてくるし」
と、月子の言葉に“へえ、そうなんだー”と驚きながら
「でも、隣のおっさんの足音や酔っぱらいの怒鳴り合いなんかは聞かなくてすむでしょ」
と、ムっちゃん。
「さすがにそれはね」
と、月子は笑いながら返す。
「でも、私は寂しがり屋だからここじゃ生活できないわ。夜になってあっちこっちにネオンが灯きだすとほっとするの。お客さんとカラオケ歌ってるときが一番好き。なーんにも嫌なこと考えなくてすむじゃない。まっ、楽しいのは一瞬だけどね。明け方、お店閉めて帰る頃にはまたひとりぼっちなんだけど」
と、ムっちゃんが笑った。

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