縁というもの
メリルとマリアとジョージがやって来た。ジョージの故郷の潮の渦をかたどったクッキーを手土産に。
そして、ジョージの母に会った日の詳細をメリルが語ってくれた。
「弟のところに行っても、父のところに行っても、失望と落胆の気持ちを思い知っただけだったので、今回ジョージのお母さんに会ってはじめて希望をみる気がしました」
と、メリルが言った。
「そう。それは良かったわね」
と、私は言って、クッキーにあうとびきり美味しい珈琲を淹れた。
「はじめて会ったけれど、ジョージパパのお母さんなら好きになれそうよ。親族で好きになれる人がいるなんて、はじめてかも知れない」
と、マリアが言いながら、はい、キッシュさんにもどうぞ、と言ってクッキーを珈琲カップの皿に載せた。
「マリアがそう言ってくれて良かった。内心、心配していたんだ」
と、ジョージが安堵したように言った。
「ジョージパパのお母さんってことは私のお祖母ちゃんになるわけでしょ。じゃ、グランママって呼ぶことにするわ」
と、マリアが言った。
「楽しい旅だったようね、特にマリアには」
と、私が言った。
「もう、それは充分に。レストランでの舌平目のムニエルも超美味しかったし」
と、マリアが言った。
横で、やれやれといった顔で黒猫がマリアにもらったクッキーをかじっていた。
「私にとっても、目的を果たした楽しい旅でした。トムの気持ちを伝えることも出来ましたし、何よりジョージのお母さんと気持ちが通じ合えた気がします」
と、メリルが言った。
「ジョージは久しぶりにお母様に会ってみてどうだったの?」
と、私は訊いた。
「はい、私にとっても有意義な旅でした。自分なりに正直な気持ちを言えたと思います。それにマリアが喜んでくれたことも」
と、ジョージは答えた。
「マリアが、ジョージのお母さんを好きになれそうって言う意味が私もわかる気がするんです。私も、ジョージのお母さんにはとても親しみを感じるんです。実の母にも感じたことがないような」
と、メリルが言った。
「わかるわーっ、それ!」
と、マリアが如何にも納得だというふうに言った。
「やはりジョージはもとより、ジョージのお母さんとも深い縁で結ばれているってことなんでしょうね」
と、メリルが言った。
「そうねえ、家族になるってことはそういうことかも知れないわね」
と、私が言った。
「ねえママ、次は誰に会うの?何だか親族に会うのが楽しみになってきちゃった」
と、マリアが言った。
メリルも私もジョージも黒猫も顔を見合わせて笑った。マリアの変わりようには目を見張るものがあると思いながら。
そして、メリルが答えた。
「久しぶりにカーチス家に顔を出してみるつもりよ。間借りのジミーが首だけで現れた理由もわからないままだし、とにかく行ってみれば何か手掛かりが見つかるかも知れないし」
「そうね。それに、間借りのジミーは今月の28日にはいなくなっちゃうんでしょ。それなら、その前に行ってジミーの親族の様子を聞かせてあげなくちゃね」
と、マリアが言った。
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