虹いろ探偵団45 12月28日、ジミーの旅立ち

12月28日、ジミーの旅立ち

その日、朝から私と黒猫は、メリルとマリアを待っていた。とびきりお洒落をして。玄関のチャイムが鳴り、部屋に入って来るなりマリアが言った。

「一体どんな格好をしたら、ジミーの旅立ちに相応しいのかって全然わからなくって。結局悩んだ末に、一番お気に入りの服にしたわ」

「マリア、とてもよく似合っているわよ、素敵じゃない!晴れやかでいいわ」

と、私が言った。

メリルと私とマリアと黒猫は、まず向かい合ってテーブルに着いた。そして、ひとりずつが間借りのジミーに別れの挨拶をすることにした。

じゃ、まずは私からね、と言って私は黒猫のなかにいる間借りのジミーに話しかけるように言った。

「ジミー、行っちゃうのね。あなたとの妙な共同生活も、とうとう終わっちゃうのね。そう思うと少し寂しいけれど、またきっと会えるわね。こうしてこの世で結んだ縁が、またきっとどこかで繋がると信じているわ。間借りのジミー、さようなら」

次は黒猫の番だ。

「ジミー、あんたが今そんなに穏やかに私のなかで寛いでいるってことは、もう見なくちゃいけないものを見たんだね。家族の団結も。まあそうなりゃ私も用なしだけど、いつでも戻ってきていいんだよ、部屋は空けとくからさ。それに、いつか首だけで来た理由も知りたいしね。さようなら、間借りのジミー」

次はメリルの番だ。

「間借りのジミー、行っちゃうのね。親族なのに、とうとう顔もわからずじまいで。生きているうちに会いたかったわ。だけど、本当はもっと前から私たち通じ合っていたのよね、家族として。祈りを通して繋がっていたからこうして会えた、今になってね。私、一生忘れないわ、この奇蹟を。魂の世界に戻ったら、ハリスやロイやトムにも伝えてね。命の大切さを、家族の大切さを教えてくれて有り難うって」

メリルの目から大きな涙の粒がこぼれた。

そして、マリアの番だった。マリアの顔は既に涙でぐしゃぐしゃだった。そして、

「間借りのジミー、このままここに居ることは出来ないの?キッシュもいいって言ってくれているんだから……」

と、呟くように言った。

メリルも私も黒猫も、痛いほどマリアの気持ちがわかったが、誰も何も言わなかった。

そして、ぼろぼろとこぼれ落ちる涙を片手で拭うようにしてマリアが言った。

「間借りのジミー、有り難う!あなたたち長男の幽霊が出てきてくれなかったら、私、家族の大切さや命の大切さに気付けなかったわ。こうして会えたことじたい、家族の愛で繋がっている証拠なのよね。私、この長男が死んでいく業を必ず食い止めてみせるわ。必ずエイドを救ってみせる、家族の団結で。見ていてね。さよなら、間借りのジミー」

そして、メリルと私とマリアと黒猫は互いに頷いて、間借りのジミーを送るために祈りだした。

間借りのジミーは、すーっと黒猫の体から抜け出した。今は首だけの姿ではなかった。半袖シャツにジーンズ姿のジミーが、暖かな日差しのなかで穏やかに笑っている。こちらを向いて。間借りのジミーはいつまでもこちらを向いたまま笑っている。なのに、少しづつ間借りのジミーの姿は遠のいていくようだ。ジミーの姿が小さくなっていく。しかし、間借りのジミーは背を向けて行こうとはしない。いつまでもこちらを向いて笑ったままだ。すると、間借りのジミーの向こうにハリスの姿が現れた。やはり暖かな日差しのなかで穏やかな笑みをたたえている。さも美味しそうに煙草をふかしながら。まるで、名残惜しそうにしている間借りのジミーを迎えに来たように。すると、ハリスのもっと向こうに小さな人影がふたつ見えた。私は目を凝らして見た。その人影はロイとトムだった。みんなが間借りのジミーを迎えに来ていた。すると、ハリスが最後の挨拶をするように、会釈をしたようだった。まるで、ジミーが世話かけたな、とでも言うように。そして、どんどんと小さくなっていく四人の影をいつまでも私たちは見送った。

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