虹いろ探偵団1 2019年、初冬

2019年、初冬

“妙”とはよく言ったものだ。
この世はまさに、それ以外の表現では言い尽くせない程に絶妙の折り合いと味わいをもって紡ぎ出されている。

私はリンダ。妙なことに、虹いろ探偵団の団長?司令塔?まあそういったところ。
探偵団って?とよく訊かれるの。さあ、実のところ私もよく分かっていない。
まあ、なんでも屋というか、便利屋かな。世間ではお節介屋と呼ぶ人もいるけどね。
だって、頼まれもしないのに世間でいう“お荷物”を買って出たりも度々だから。
そう言った訳で、我が虹いろ探偵団は経営危機を脱したことがない。
だがこれも妙なことに、恵まれているとしか言いようがないのだが、あったかい寝床と滋養のある温かい食事に事欠いたことはない。
あっ、それから一番有難いのは、妙に毎日が楽しいってこと。

「リンダ、おはよう。昨夜はお疲れ様~」
そう言って、出窓から暖かな光が差し込むリビングに入ってきたのは夫のローリー。
その登場を待ってました、とばかりに私は
「珈琲と野菜ジュース、どっちにする?」
と、まだ寝ぼけまなこのローリーに訊く。
朝から近所の森林公園を一周してラジオ体操も済ませてきた私は、とてつもなくお腹が空いていたのよね。
「ありがとう、じゃ珈琲で。それで、昨夜はグリーンさんの奥さん、何時までかかったの?」
と、ローリーが訊いた。
「結局、夜11時をまわってたかな」
「そうだろ~、だって僕、10時半までは起きていたけど、いつの間にか寝落ちしてしまってたよ」
そう言いながら、今朝はジャム?それとも蜂蜜バター?と私に目で問いながらトーストの準備をするローリー。
「昨夜、メリルさんに来てもらったのが7時だから、4時間以上話し込んでたことになるわ」
と、私は言った。

1年と数か月前に、メリル・グリーンさんは虹いろ探偵団のドアをノックした。
その当時の依頼内容については一旦の解決をみたのだが、その後も私のなかでいくつかの疑問が消えることはなかった。
それが、ふとした瞬間にすべてが繋がった気がしたのだ。

その日も、夫婦でバスタブにつかりながら語らっていた。
「ピエールさんが常々おっしゃっているじゃない、事実と真実は違うって。両目で見えるものは事実だけであって、心の眼で見なくちゃ真実は見えないんだよって」
と、私は両手ですくいあげた湯が、その手のひらの器から指の隙間をつたって少しずつこぼれ落ちていく様をみながら言った。
「メリルさんのご主人は、お兄さんの自殺はお金に困ったからだと思っていらっしゃるみたいだけど、本当にそれだけなのかしらって、そこもずっと引っかかっているのよね」
と、言った瞬間、
「あーっ、わかったーっ!そうか、そうだったのよ、合点がいったわ!」
と、大声で私。
「ビックリした―っ。どうしたの、何がわかったの?」
と、ローリー。
「凄いわ!ちゃんとヒントを貰ってたーっ。やっぱり必要な情報は全部貰っていたのよ。これで謎がすべて解ける気がする。黒いことも白いことも!」
と、興奮気味に私は言った。
そうと解ればモタモタしていられない、といった風にバスタブから飛び出す私に
「僕、全然わからないよ」
と、ローリー。
「後で話すわ!」と、私は浴室をあとにした。

そして昨夜、私はメリル・グリーンさんと再会したのだ。
「新たな事実、いや真実に辿り着いたかもしれません」
と、私は切り出した。

こんがり美味しそうに焼けたトーストにブルーベリージャムを塗りながら
「それで、グリーンさんの奥さんはどうだった?」
と、ローリーが訊く。
「そう考えればすべて納得がいくって。真実を知ることができてよかったっておっしゃってたわ」
そう応えた私は、メリルさんの心に思いを馳せながら、淹れたての珈琲の香りに
ふうっと胸をなでおろす。
ローリーも同じく安堵したようだ。
そして次の瞬間、
「だから、グリーン家のことは一から洗い直しをして裏付けをとっていかなくちゃね。これから忙しくなるよ」
と、私。
「了解!じゃ、黒猫キッシュにも出動命令だね」
と、ローリーは敬礼のしぐさで言った。

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